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RightTouchを“社外”に作った理由。熱量を凝縮した垂直立ち上げで、1.2億人のカスタマーサポート市場に挑む【CEO対談・前編】

プレイド初の取り組みとして、社内新規事業からスピンオフして新たに創業した株式会社RightTouch。カスタマーサポートというレガシーな市場に、カスタマーデータとテクノロジーを掛け合わせて挑むスタートアップです。問い合わせ前の自己解決を促進するWebサポートプラットフォーム「RightSupport by KARTE」は、2022年3月に提供開始された後、わずか9ヶ月でARR1億円を達成し、現在も猛スピードで成長を続けています。

しかし、RightTouchを初めて知る方にとっては、プレイドやプレイドの基幹事業であるKARTEとの関係性や影響度、グループ内部の事情など「正直よく分からない」「ただの子会社では?」という疑問や感想を持たれるかもしれません。

今回は、プレイド代表である倉橋(写真右)と、社内新規事業をスピンオフしてRightTouchを創業したRightTouch代表取締役・野村(写真左)の対談を通じ、「なぜRightTouchを“社外”に作ったのか」「グループ内では、どんな位置付け・期待なのか」「倉橋から見たRightTouch、野村から見たプレイド」という視点を、読者の皆さまに前後編に分けてお届けできればと思います。

後編:「地味でレガシーだからこそ介在する価値がある。カスタマーサポート領域が秘める市場成長と社会貢献の可能性


「カスタマーサポート領域進出」は偶然ではなく必然。創業当初から期待していた市場ポテンシャル

ーー野村さんは、プレイド本体で2年ほどセールスをする中で、RightSupport by KARTEの事業案を構想されたと聞きました。倉橋さんは、野村さんから最初に提案を聞いた時のことを何か覚えていますか?
倉橋:僕はあんまり記憶力が良くないから(笑)でも、最初からかっちりした事業計画というよりは、野村が当時プレイドで担当していた大手クライアントの中に、「KARTEをカスタマーサポート文脈で活用している企業がある」という話を先に聞いていて。

そもそも、KARTE自体が汎用性の高いプロダクトなので、マーケティングの一環でカスタマーサポートに転用するユースケースがあること自体は認識していました。一方で、カスタマーサポートだけに限ってプロダクトを最適化し、価値創出をするという動きはしていなかったのが当時の状況でしたね。

各部門へ広がるプラットフォームとしての構想

野村:そうでしたね。倉橋には、そういった自然発生的な事象や、カスタマーサポートに特化して試験運用する顧客の動向や成果については、こまめに伝えていました。正式な事業提案をするずっと前から、「カスタマーサポートって、マーケットポテンシャルありそうだよね」という雑談は2人でしていました。

ーーカスタマーサポート領域への事業展開は、プレイド創業当初から考えていたんですか?
倉橋:少しだけKARTEの初期の話をさせてもらいますね。KARTEも、今でこそマーケティング×データの領域で成長してきた事実がありますが、最初から「マーケティングツールを作ろう」と思って開発したわけではないんです。企業が顧客を精緻に理解できるようにすること自体に価値があると思っていて、結果として最初にマーケットフィットした領域が「マーケティング」だったんです。

ただ、マーケティングに限らず、顧客データ・行動データを包含する意味での「カスタマーデータ」がより精緻かつ横断的に計測されるようになり、顧客が見える化されていくと、それまで構築されてきたカスタマーサポートを含む業務オペレーションが180度変わることは、仮説というか確信がありました

なので、カスタマーサポートの領域は、創業当初から構想していたことではありつつも、「いつ」「どのように」世に出せるかは全く分からなかったのが本音です。マーケティングの領域だけでも、十分広いマーケットですから。なので、野村から提案をもらったときは「お!ついに来たか!」と思いました。

昨年移転したRightTouch新オフィスにて対談

外的・内的要因がベストマッチ。RightTouchを、今・この人たちで「外」に立ち上げた理由

ーー然るべき時が来た、と。もう少し深掘りすると、カスタマーサポート領域に進出したのが、なぜこのタイミングだったんでしょうか?要因はありますか。
倉橋:マーケット観点とプレイド観点の二つがあります。マーケットとしては、メンバーが自律的に顧客提案を進める中で、自然発生的にカスタマーサポートSaaSとして利用されるシーンが増えていました。かつチャットボットなど関連サービスも急速に増え、デジタルシフトと共にカスタマーサポート領域全体が盛り上がってきた時期でした。一方、プレイドとしてはマーケティングという主要ドメインでも十分マーケットサイズが大きい中、カスタマーサポートという特化した領域に情熱を感じてくれる野村や共同で代表を務める長崎といったメンバーが現れてくれました。

やっぱり事業は、「やりたい人」がいないと始まらないんですよね。特にカスタマーサポートは、どちらかといえば陽ではなく陰、動ではなく静な業界。そしてテクノロジーの感度が、マーケティングと比較すれば現状では劣っている環境。さらに、顧客として対面する部署や人もKARTEで向き合う方とは異なります。カスタマーサポート領域での事業は、相当な胆力を持って、泥臭いことを着実に進められる人でないとやりきれないと思っていました

事業が始まる時点で、成長がここまで綺麗に見えていたわけではありません。むしろ解像度は全然高くなかった。ただ、当初からの構想、そして野村や長崎との対話や議論を通じて、マーケットサイズとその社会的な重要性はとても強く感じていました。腰を据えて取り組める環境さえ作れれば、将来ものすごく大きな事業になっていくという漠然とした想像はありましたね。

ーーさらに突っ込んだ質問になりますが、社内での一事業としても立ち上げることはできたと思います。あえて別の会社に分けた理由を教えてください。
野村:倉橋は常々「急成長事業を、社内の一つの事業部としてつくるのは難しい」と話していました。
顧客属性やマーケット構造の違い、新たな事業ブランド構築やスタートアップ初期フェーズだからこそ仲間にできる人の存在...など、会社を分ける必要性は社内外のさまざまな観点から感じました。確かにプレイドのコア事業であるKARTEは、マーケティング領域だけでも十分TAM(※)があり、継続的に成長を続けています。一方で、先に触れた通りカスタマーサポート領域は隣接こそすれ、異なる顧客、異なる業界構造、異なる時間軸で向き合う必要があります。それを同じ会社の中で事業部だけ分けても、優先順位や熱量が食い違ってしまう
※TAM(Total Addressable Market):ある事業が獲得できる可能性のある全体の市場規模。

ーーカスタマーサポート領域とマーケティング領域の「異なり」とは、具体的にどういったものなんでしょうか?
野村:顧客の違いとしては、マーケティング領域は社内でもプロフィットを生む「攻め」の存在として、多方面から情報収集をしながら、自社戦略に適したデジタルツールを導入・活用してきた経験をお持ちの方が多いです。単純化して言うならば、デジタルリテラシーが高い方です。一方で、カスタマーサポート領域はこれからデジタル化していく段階。経験値や文化、情報収集・判断軸という点で差があります。

業界構造としては、「システムの壁」「オペレーションの壁」「部門の壁」という3つの壁があるため、カスタマーサポート領域が構造的に進化しづらい状況が続いていました。(3つの壁については、長崎がnoteに詳しく書いているのでこちらをぜひご覧ください。

また、時間軸の違いは、それぞれの領域の役割の差から生まれるものです。マーケティングは、瞬間的な顧客獲得、いわゆるコンバージョンの発生が期待されることが多いです。一方でカスタマーサポートは、LTV(※)を向上させること、つまり長期的な顧客関係性の構築や改善が求められます。ゴールが違う領域なので、意思決定にかかる時間も異なります。
※LTV(Life Time Value):顧客生涯価値として、ある顧客が自社サービスの利用開始から終了までにどれだけの利益を生み出すことができるかを測る指標。

カスタマーサポート領域の顧客と真摯に向き合い、より良いプロダクト価値を探索し続けるためにも、組織の箱を別にしたのは正解だったと思います。

起業時に言われたのは3つだけ。「アサインはダメ」「ファーストドミノを考えろ」「オフィスを出ろ」

ーー野村さんも初めての起業・代表体験で苦労したこともあったと思います。倉橋さんからは、何かアドバイスはありましたか?
野村:基本的には何も言われないんですが(笑)、口酸っぱく言われたのは「アサインはダメ」「ファーストドミノを考えろ」「オフィスを出ろ」の3つだけですね。

ーー気になるキーワードですね(笑)内容をそれぞれ教えてほしいです。
野村:まず「アサインはダメ」という言葉は、採用・人事に関するものですね。

倉橋:プレイドの現役メンバーを、アサイン(人事異動)やトップダウン形式の意思決定でRightTouchに所属させることはやろうと思えばできたんです。ただ、先ほど話したように花形として持ち上げられるドメインというよりは、胆力が求められる所。「カスタマーサポート領域がやりたい!重要だ!」と思っている人たちで走り出さないと始まらないだろうと思っていました。

野村:事業アイデアは僕と共同代表の長崎で考えていて、二人ともビジネスバックグラウンド。事業を早く始めるためにも「クラケン(※倉橋の社内での呼び名)たちに、アサインの相談しに行かない?」なんて話をしていたくらいです。ただ、倉橋に採用の相談をしたところ「自分たちで探しに行くしかないよ。アサインはダメ」と言われて、社内外を走り回りました。最終的に、倉橋や他メンバー複数名からも名前が挙がった現取締役エンジニアの籔と話したところ、一発で「これは籔さんしかいない!」となって、長崎と一緒に必死に口説き落としましたね。

倉橋:プレイド一社の視点だと、籔にコアチームから抜けられるのは痛すぎたんですが、熱量が揃う胆力のある人たちが集まらないといけない事業だと思っていましたし、そんな人を口説けない会社がうまくいくわけないとも思っていました。逆に言えば、それさえ乗り越えられたら、あとは大丈夫という感覚も持っていました。

ーー「ファーストドミノ」は何に関するアドバイスなんですか?
野村:これは事業展開の「順番」に関するアドバイスです。
RightTouchは、起業当初から「コンパウンドスタートアップ」として、カスタマーサポート領域における複数のプロダクトを展開することを構想し、事業立ち上げを進めていました。この成功には、ドミノ倒しのイメージで、会社全体としての理想の姿を描いた上で事業が一気に進捗する「ファーストドミノ」を何に置くかが鍵になるというものです。

KARTEは、コンパウンドスタートアップという定義が広まる前から、マーケティング領域中心に進めてきたことだったので、倉橋からの助言は実体験に基づく説得力あるものでした。

ファーストドミノに関しては、こちらのnoteでも詳しく触れています。

最後の「プレイドのオフィスを出ろ!」エピソードは、以前のインタビューでも触れていますが、実は一回だけじゃなく、倉橋からは三回ぐらい優しく言われました(苦笑)

倉橋:RightTouchの創業メンバーの野村・長崎・籔は、初期(創業当時)はとても真面目で。放っておいても、道を踏み外さなそうな人たちとでもいうか。三人とも起業経験や経営経験があるわけではないけれど、いろんなことを考慮して推進・実行する力がある。

ただ、RightTouchの経営陣は、その真面目さゆえに、どんどん大きくなっていくプレイドのコア事業と同じ空間にいるままだと、無意識的にすごく影響を受けてしまうだろうと思っていたんです。物理的な空間を分け、熱量を小さな空間に凝縮してあげたほうが、この創業メンバーにとって良いんじゃないかなと思いました。腹を括ってもらうという意味も込めて「オフィスから出てけ!」って言ってましたね(笑)

ーー「熱量を凝縮する」というのは、すごく腹落ち感のある表現ですね。実際、その効果はありましたか?
野村:熱量を凝縮した恩恵は、本当に大きかったです。もっと早くオフィスを出て行っても良かったくらい。プレイドの広いオフィスにいると、たくさんの社員と会うんです。だから、まるで自分たちの組織にも、人がたくさんいる感覚に陥るんです。それが、銀座から目黒の小さなオフィスに移り、当時10人にも満たない社員を見て「これだけしかいないのか」と思うと、自分たちの組織や組織文化をすごく意識するようになりましたね。また、人を集める重要度も明らかに変わりました

目黒オフィス(当時)のMTG風景

倉橋:RightTouchには、できる限り起業・創業に近い状態で初めて欲しいと思っていたので、甘えさせてはいけないところは自力で頑張ってもらい、本人たち自身が「起業家」としての成功体験を積んでもらえるような距離感は意識していたかもしれません。

- Interview/Writer: 緒方 祥子(フリーランス)
- Photographer: 加藤 甫(フリーランス)


後編では、二社の事業・経営的な関係性や、RightTouchが向き合うカスタマーサポート領域の変革が、プレイド・顧客・そして社会にどのようなインパクトをもたらすのかなどの話を聞きました。

RightTouchは、絶賛創業期メンバーを募集しています!カジュアル面談も大歓迎です。ぜひ一度お話ししましょう!