地味でレガシーだからこそ介在する価値がある。カスタマーサポート領域が秘める市場成長と社会貢献の可能性【CEO対談・後編】
プレイドの創業者であり代表取締役CEO・倉橋と、RightTouch代表・野村の対談を通じ、プレイドグループ初となる社内新規事業からスピンオフした株式会社RightTouchの軌跡とこれからを語る本企画。前編「RightTouchを“社外”に作った理由。熱量を凝縮した垂直立ち上げで、1.2億人のカスタマーサポート市場に挑む」では、RightTouchが特化するカスタマーサポート領域への進出背景や、会社立ち上げ時のエピソードを伺いました。
後編となる本編では、二社の事業・経営的な関係性や、RightTouchが向き合うカスタマーサポート領域の変革が、プレイド・顧客・そして社会にどのようなインパクトをもたらすのか、話を聞きました。
二社の関係は「従属ではなく並列」。異なる強みを活かし、グループとして最大化するための新たな組織戦略とは?
ーーRightTouchは、「社内新規事業からスピンオフしたスタートアップ」と位置付けられています。本体の一事業ではなく、別会社として立ち上げた理由を改めて教えていただきたいです。
倉橋:資本関係上はもちろん親子関係がありますが、そもそもその整理の仕方自体が「古い」と思っています。
前編でも少し触れましたが、別会社にした目的は、プレイドとRightTouchが向きあうマーケット・顧客属性が、マーケティングとカスタマーサポートと異なるものだからです。テクノロジーへの感度・浸透度や、社内における位置付けなど、まるっきり違います。そうした違いがある中でも、全部のドメインで圧倒的なコミットを発揮できるようにし、その先に掲げる大きな未来を一緒に目指すための最適解が、新会社の設立でした。二社はあくまで並列的な存在として、相互にお互いのアセットを使いあうというのがあるべき姿だし、実態です。
野村:他のインタビュー記事でも話していますが、僕は「最初から別会社として立ち上げたい」という意思がありました。前職の経験からも、事業・顧客ドメインが違えば、作るプロダクトも違うということを強く感じていて(詳細は前編記事に)。
倉橋以外の経営陣から、「カスタマーサポート領域は、一事業としてプレイド社内でやればいいのでは?」という意見も出てきました。ただ、会社を分けることは絶対に譲りたくなかった。前編で話した通り、既存事業と新規事業だと、フェーズも重要な観点も全く異なるため、同じ会社内に置いてはどうしても優先度や熱量に差が生まれてしまうからです。倉橋とは目線があっていたので、他の経営陣にも別会社の形態に納得してもらえるよう、準備段階では気合を入れて一緒に動きました。
倉橋:後日談としては、RightTouchを設立してから一年後の取締役会では、反対もあった分社化に対し、取締役全員が「初期のグローススピードが非常に良い状態で事業として離陸できたので、プレイドとRightTouchを分けて良かった」と話していました。従属しない形で分ける判断をしたことで、この環境を正解に変えるためにRightTouchチームの覚悟が決まったことは間違いありません。その結果、良いプロダクトが構築され、良い仲間が集まり、結果として期待以上のスピード・成長を初年度から実現できたのだと思います。
もちろん100点ではないし、もっと良くできる点もあったとは思います。そしてまだまだ解かなくてはならない課題がたくさん残っている。ただ、組織が大きくなるほど、合理性だけで説明できないことを進めるのは、リスクが高くなるもの。「会社を分ける」という高リスクで前例のないチャレンジを、腹を括ってやりきって、なんとか成功させるという動き自体、グループ全体にとって極めて重要な意味を持ちました。RightTouchの急速な立ち上がりが成功したからこそ、新しいグループ会社の設立もスムーズに決まるようになりました。
ーー先ほど倉橋さんから「大きな未来を叶えるための最適解」として別会社化の経緯をお話しいただきました。プレイドグループとして掲げている「大きな未来」の詳細を、もう少し教えてほしいです。
倉橋:「大きな未来」の詳細は、まだ明文化しているわけではありません。ただ、コンセプトとしては「顧客資本経営」というものがあります。前提として、僕からすると企業は数字は見えていても、顧客のことはまだまだ見えていないと思っています。昨今、人的資本経営の高まりも出ていますが、「顧客」という資本を正しく理解し、企業価値を高めるレバーにしていくことは、これから間違いなく必要な動きです。
また、少し観点を変えた話をすると、RightTouch以外にも、エモーションテックというグループ会社があります。実は、M&Aを通じてグループインしましたが、今後単独でのIPOを目指しているんです。M&Aやスピンアウトに限らず、大きな未来をともに実現することを目的に、戦略的に最適な形態や資本関係を模索することは、プレイドグループが持続的に成長し、社会に貢献し続けるためにやるべきことだと考えています。
T2D3レベルの実績で最速PMFを実現。その鍵は、二社間での適切な距離感
ーー二社間では、どういう時に相談したり、アセットを使いあったりしているんですか?
倉橋:RightTouchへの関わり方を表現するなら、いわゆる「ハンズオフ(※)」でしょうか。何か相談が来るまでは、自分からは行かないと決めていました。
※ハンズオフ:出資先が、経営にほとんど関与しないというマネジメント方針を表す投資用語。
野村:最初から「起業」と変わらないスタンスで、倉橋は僕たちに関わってくれました。良い意味で放置されているというか。「自分たちでやれよ」という暗黙のメッセージを、RightTouch経営陣に良いプレッシャーとして送ってくれていたように思います。変に依存するという関係では、全くないですね。
逆に、独立したスタートアップであれば避けられない「資金的な問題」を、事業の初期フェーズでは、僕たちは考えなくて良かった。もちろん、スタート時にある種の下駄を履いている分、他のスタートアップより早く成長できるかといった責任感は大きかったです。ただ、資金面での余計な不安やノイズがなく、事業をPMF(※)させることに集中できたのは、プレイドとの関係があるからこそ生まれる強みだなと思います。今後の事業成長のなかではより独立して考えていく必要はありますね。
※PMF(プロダクトマーケットフィット):自社のプロダクトが市場・顧客に支持されている状態のこと。売上をつくる基盤となる指標。
ーーRightTouchのプロダクト「RightSupport by KARTE」は、ローンチ9ヶ月でARR1億円の実績を作っています。この成長ぶりを、倉橋さんはどう捉えていますか?
倉橋:社外にある一般的なスタートアップ、そしてプレイド本体事業という二つの視点に分けてお伝えしたいと思います。
まず、一般的なスタートアップ視点では、ローンチして9ヶ月でARR1億円まで成長する企業はほとんどない。しかも今期はさらに伸びており、いわゆるT2D3(※)のスピードです。これだけでも十分すごいですし、それだけ価値のあるプロダクト、市場なのだと思います。
※T2D3:SaaSビジネスの成長スピードを測る指標。Triple、Triple、 Double、 Double、 Doubleの頭文字を取り、ローンチからの年間売上額の推移を表す用語。
また、プレイド本体事業と比較すると、同等もしくはそれ以上のスピードで成長したKARTEプロダクトは他にもあります。この事実自体、KARTEというプラットフォームが、プロダクトの開発基盤として、非常に良いポジションにいることの表れだとは思います。一方で、同等の成長をしたプロダクトは、マーケティング領域の課題解決という共通項があるので、既存プロダクトで培ったアセットを使いやすい。反面、RightTouchはカスタマーサポートという異なる領域で、共通のアセットが少ない中、模索したフェーズから生み出されたスピード・実績です。「熱量」を閉じ込めた戦略は、功を奏したと思います。
カスタマーサポート領域の「負」の解消は、本質的な社会貢献。RightTouchの伸びしろとテクノロジーがもたらす未来予測
ーーRightTouchの強みや良い点は見えてきたように思います。逆に倉橋さんから、「ここが伸びしろ」と思う点はありますか?
倉橋:「無理するポイントを作れるか」ですかね。
前編でも触れましたが、RightTouchの経営陣は、全員「スマート」。能力のポテンシャルはすごいし、彼らの実力でプロダクトをグロースさせられる確信はあります。ただ、多くの人を惹きつけていくにあたり、一種の「無茶さ」も、ものすごく大事だと思うんです。
現時点でうまく行っているからこそ、ちゃんと怪我してほしいなと思います。後々、絶対にその経験が糧になるので。
ーー経営陣に対して、面白い期待のかけ方ですね。カスタマーサポート領域の事業観点だと、これからどのような点が面白くなっていくんでしょうか?
倉橋:RightTouchが取り組むカスタマーサポート領域は、ドメインとしての大きさが魅力的なだけでなく、社会貢献という観点でもすごく良いと思っています。
ドメインとして大きいという意味は、大きく3つです。まず、すごくお金が流れていること。そして、関与人口が多いこと。最後に負が大きいこと。
野村とは「野心」だとよく将来のことを話すのですが、RightTouchの存在で、カスタマーサポートをリアクティブからプロアクティブへ、そしてコストセンターからプロフィットセンターへ変えたいという強い思いがあります。
カスタマーサポートにテクノロジーを実装できると、プロフィットセンターへ転換できる確信があります。そして、エンドユーザーだけでなく、カスタマーサポートに関わる仕事をする人の働き方、そして生活までも明るく豊かにできる。そんなプロダクトや領域に関われるのって、本当に素敵だし、なんで他の会社も入ってこないんだろうと思います(笑)
野村:「カスタマーサポート」へのネガティブな先入観が強すぎるんですよね。地味で、古めかしくて、テクノロジー感が薄く、なんとなく面白くなさそう、というか。華々しい領域ではないので、先進性を好む傾向にあるスタートアップには避けられてきたのかもしれません。ただ、今までもいろんな事業ドメインに向き合ってきましたが、ずば抜けて面白い領域だと、僕は毎日感じています。
もちろん他と比較すれば、デジタルやデータ活用が浸透してこなかった領域であり、コストセンターの見られ方をする部署だった事実はあります。
ですが、今まさに向き合っている顧客の方々は、僕たちのプロダクトを通じて「自分たちはデータ武装できている」という感覚が得られると、働いていて本当に楽しそうな表情に変わります。それこそ社長賞を取る方も現れたりと、会社の中でも大きな評価を受けている。プロダクトを通じて、業務・事業だけでなく、働き方や社会を変えられてきている感覚があり、代え難いやりがいを感じます。
DXという言葉は、ここ数年で急速に流行り、そして使い古されつつある危機感を感じています。データを集めて分析して終わりというDXではなく、抜本的かつ本質的な業務改革・業界変化の意味での「DX」の代表例として、RightTouchの名を轟かせられるよう、これからもプロダクト・組織に向き合っていきたいと思います。
- Interviewer/Writer: 緒方 祥子(フリーランス)
- Photographer: 加藤 甫(フリーランス)
前後編と2本にわたってお届けした本記事ですが、いかがだったでしょうか?プレイドやカスタマーサポート業界をすでに知っている方だけでなく、社会課題の解決やレガシー産業のDX、そして創業期スタートアップに興味を持っている幅白い方に、RightTouchとカスタマーサポート領域に少しでも興味を持っていただければ嬉しいです。
そんなRightTouchは、絶賛創業期メンバーを募集しています!カジュアル面談も大歓迎です。ぜひ一度お話ししましょう!