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コンサル→プレイド→社内起業→共同代表へ。『事業を伸ばすことを愛せる人』の仕事論

KARTEの強みを活かし、カスタマーサポート領域に特化するサービスを提供するプレイドの戦略子会社として立ち上がった株式会社RightTouch。問い合わせ前の顧客をオンライン上で自己解決に導く「KARTE RightSupport」のβ版提供を続け、正式リリースに向けた磨き込みに励んでいます。

事業責任者として事業開発や推進全般をリードするのは、長崎大都。2023年6月には、代表取締役の役職も担うことになり、創業時から代表取締役を務める野村とともに、事業を牽引する立場にもなりました。コンサルとしてキャリアを始め、事業作りにより関わりたいという思いから転身を決意。その先にプレイドを選び、子会社立ち上げへ至った彼の転機と学び、そしてこれからの展望を聞きました。

※本インタビューは、2022年10月に公開したものを、一部編集・更新して掲載しています。

長崎 大都(ながさき たいと)
株式会社RightTouch 代表取締役
1990年生まれ。京都大学大学院を経て、2015年に株式会社経営共創基盤(IGPI)に入社。自動車/IT領域の大手企業への経営戦略立案・実行、及び投資先企業のバリューアップをリード。2019年よりプレイドに参画。大手企業さま向けのカスタマーサクセスや三井物産とのJV立ち上げに従事。現在はプレイド初の子会社となるRightTouchを野村とともに立ち上げ、事業責任者として事業開発/推進全般をリード。2023年6月から、代表取締役に選任。

仕事における「制約」を外していきたかった

──プレイドに転職した経緯から伺わせてください。どういった課題感を持たれていたのでしょうか?

長崎:
もともと、最低でも一日8時間以上働くならば、何かしらで世の中へインパクトを残したいという想いがありました。新卒でコンサルティングファームを選んだのは、経営レイヤーの意思決定に携われることと、自らの地力を付けることでその後のキャリアの選択肢も広がると考えたからです。

元々の想定通り地力はかなり付きました。ただこれはコンサルの事業構造上避けられないのですが、あるべき提案をしても最終的に意思決定するのはクライアント、という点に、仕事における「制約」を感じ始めました。

私のいたコンサルティングファームは業界でも珍しく、リスクを取った事業投資もしていました。そこで、福島県のバス会社へ投資していた案件に挙手して、入社3年目のときに単身で出向き、事業再生やバリューアップの職務に就いたんです。

上段の意思決定から現場の泥臭い改善まで、スコープに囚われずに携われて非常に楽しく、1年半は福島県に常駐していたのですが、メインは「事業の立て直し」でした。もっと自分で世の中に新しい価値を残したい、という考えが強くなり、転職を決めました。

──仕事に対するフォーカスや、自身が求めるスキルが変わっていったのですね。

長崎:
やはり自らで意思決定ができると「やれる幅」が大きくなりますから。自分で決められると物事を進める上での変数も多くなり、考えることが増え、そして思考がそのまま事業として形になっていく。そのプロセスが一番好きだったので、今思い返せば事業会社向きだったのかなと。

──そこでプレイドを選ばれた理由は?

長崎:
「データによって人の価値を最大化する」というミッションや、プレイドで働く「人の良さ」というベースは当然にありながら、まずは「制約の無さ」に惹かれたのが大きいです。私はエンジニアリングやデザインはできませんが、それ以外の事業創造に必要なスキルならキャッチアップすれば何とかなるはずだ、という自負がありました。プレイドはエンジニアのレベルが高い会社です。良い事業を構想し、良い戦略を作れば、エンジニアが並走してくれて事業ができる。そう思わせてくれたのは、私からすれば制約のない環境だったといえます。

エンジニアのレベルの高さを感じたポイントはいくつもありますが、まずはプロダクトに対する感覚が優れており、事業の全体感を持って設計できる人が多いこと。さらに実装の速さと質も伴っています。適切にビジネスのメンバーとコミュニケーションが取れ、時には「ビジネスメンバーよりビジネスの造詣が深い...!」と思わせてくれることもよくあります。

また、プレイドを選んだもう一つの理由は「事業が応用できる範囲の広さ」です。KARTEの「顧客軸に沿ってデータを解析し、顧客に合わせたアクションをする」というコンセプトは、マーケティングだけではない領域にも通じ、非常に汎用性が高くなっています。そしてそれを支える強いコアアセットもあるので、伸ばせる余白がめちゃくちゃありますし、新しい事業を立ち上げる展開で自分が携われる価値があると考えました。


カスタマーサクセスの経験で見えた「課題と武器のマッチング」による可能性

──プレイド入社後はどういった仕事から始まりましたか?

長崎:
カスタマーサクセスです。自分としても現場の課題や、プロダクトの使われ方を知りたかったので、まず少なくとも半年はカスタマーサクセスに携わりたいという希望を出していました。

──カスタマーサクセスとしてどのような学びがありましたか。

長崎:
コンサルはクライアントの要望にスコープが絞られています。特定領域の事業を立ち上げたい、コストカットして事業再生をしたい、といったことです。一方のプレイドはKARTEというプロダクトが前提にあり、言わば「武器はあるけれど、いかに課題を設定して、顧客の価値につなげるのか」はクライアントによって考え方の粒度もまちまちです。

つまり、この武器をどのように課題へ当てていくか、という思考になります。だからこそ、最初は「KARTEがいかなる武器なのか」をキャッチアップしていくことを重視しました。そして知れば知るほど、KARTEは汎用的なプロダクトだと感じました。

顧客の事業課題に深く踏み込んでいくと、何かしらの形でKARTEが必ず価値を出せると思えるほどです。その点では、コンサル的なアプローチで企業に入り込んでいっても、結果として必ず価値がついてくるプロダクトであるという気づきがありましたね。

──課題と武器のマッチング次第で事業が生まれそうな予感が持てた、といいますか。

長崎:
まさにそうです。実際に、RightTouchもその観点から立ち上がっています。私の担当企業さまのカスタマーサポート部門に事業課題ベースで深く踏み込んでいったら、事業のタネが見つかった、というところです。

ただ、事業化するには特定の顧客の抱える課題を解決するような「1対1」の関係性ではなく、「1対N」にするためのより汎用的な事業構想が必要でした。カスタマーサクセスに携わる半年間で、実際にマーケットリサーチはもちろん、他の企業さまのカスタマーサポート部門の方々にもヒアリングを重ね、事業構想の磨き込みをかけていきました。

──カスタマーサポート領域に感じた可能性とは?

長崎:
定量と定性で両方ありますが、マーケットの「可能性」と「課題」に惚れたところはあります。

市場規模が1.5兆円規模と大きいのもありますし、もともとどちらかといえば変化が遅い業界ですが、さまざまなSaaSが台頭し、コンタクトセンターシステムがクラウドに置き換わるなど、変化の兆しがありました。そういった外部環境の変化は、事業の新しいタネが見つかるタイミングだと思っていて。巨大市場が変わり始めているのであれば参入する余地があるのでは、と考えていました。

また、カスタマーサポート部門は顧客接点が一番多い部門にも関わらず、「コストセンター」として認識されているところに強烈な違和感を感じていました。様々なセンターのオペレーターの方々と会話すると、「顧客理解が深いな」「実際にサービスの課題に触れているな」と感じる一方で、その暗黙知を事業やサービス、顧客に還元する武器がありません。ここに私たちが武器を配れたら、事業価値や顧客価値を高められる大きなインパクトを生めると感じました。

探索のPDCAをより早く回すために分社化した

──RightTouchとして分社化する過程には、どういったディスカッションがありましたか?

長崎:
事業やマーケットの可能性が見えたところで、RightTouch代表の野村と、プレイドCEOの倉橋と、今後の事業成長を最大化する理想の環境について議論しました。内容は、プレイドのミッションや既存のプロダクトであるKARTEに縛られず、いかにゼロベースで新たなドメインに向き合うかについて。その結果、「チームとして独立させて事業化を狙いたい」と決断し、ソニーグループさまとの実証実験から始めました。

具体的なコンセプト設計や案件の実証と、抽象的にマーケットを俯瞰して攻める場所を探索するという、まさに「具体と抽象の往復」を続けながら、頭から血が出る感覚でディスカッションしていきました。分社化する考えは、野村の意思が強く反映されています。やはり既存事業からのリソース配分ありきだと、探索のPDCAが回しにくいところがありますから。「プレイドの中でやるのか?分社化するのか?」はかなり議論はありましたが、今振り返るとこの意思決定をして本当に良かったと思ってます。

──エンジニアのアサインについては、立ち上げから参画した籔悠一さんが、野村さんから「カスタマーサポートについて語りたいんだよ!」と声を掛けられたのがきっかけとおっしゃっていました。

長崎:
当初「プレイドからエンジニアをアサインしてほしい」と倉橋に伝えたところ、「自ら『やりたい』と熱意を持って携わる人が技術のトップに就かないと持続性がないし、“最初の一人”も落とせない事業は成功しない」と言われて。確かに、と頷き、DMでエンジニアに声をかけ、事業構想を説明して……というのを始めたんです。その過程で籔に出会い、「この人と一緒にやりたい...!」と野村と私の意見が一致して、何度もディスカッションに誘った結果、籔がチームに加わってくれました。そこから徐々にクローズドで採用を進めつつ、会社を立ち上げていきましたね。

RightTouchは今、急成長前夜のフェーズにある

──立ち上げから1年半が経ちました。現在のフェーズは最初のMVPだと思いますが、ここまでを振り返ってみて、いかがでしょう?

長崎:
株式会社RightTouchが提供するKARTE RightSupportは「お客様のお困りごとを「問い合わせ前」に収集・解析し、Web上でのエフォートレスな自己解決を実現する」サービスです。その背景としては、多くの企業では問い合わせを減らすためにチャットボットやFAQページなどを用いて、顧客の自己解決を促したり、ナレッジを築いていったりしていますが、現状ではエンドユーザーが能動的に行動しないと解決策に辿り着けません。情報はあるけど辿り着けない、Webサイトが「辞書的」になってしまっています。

むしろ、問い合わせ前の課題を把握し、問い合わせの有無に関わらず、困りごとがあったお客様全体を救う価値があると考えており、RightSupportはそのための武器を提供しています。現在はオープンβ版で提供し、実際にお客様へ提供しながら学習を回していくフェーズですが、反応はよく多くの受注をいただいています。本リリース時にはプロダクトをさらに磨き、ここから拡販の体制に持っていく手前のフェーズまで来ています。

──本リリースに向けた検証期間だとは思いますが、今後のビジョンを踏まえて、どのような攻め方をしていこうとお考えですか。

カスタマーサポート業界で解決すべき課題は山積みです。例えば、問い合わせ前の「ウェブ上のデータ」と、現在は「電話のデータ」には分断が起きています。エンドユーザーの「ウェブ上で情報を探したけれどもつまづいてしまい、結果として電話をした」という行動があったとしても、オペレータはその過程が見えていないんですね。この「ウェブと電話をつなぐ」は次に解くべきテーマになってくると思います。

今ローンチしている「KARTE RightSupport」はRightTouchとしてはあくまで「序章の序章」というのは強調したいところです。結果として、エンドユーザーが課題を解決し、オペレーターの業務効率を上げるためには、まだまだつなぎ込める箇所があります。

もっと大きな視点から見ても、「問い合わせを減らす」というのは手段であって目的では全くありません。大切なのは顧客と企業のコミュニケーションの質を上げていくことです。その余白を作るために、まずは問い合わせを減らしながら、お客様とオペレーターの対人コミュニケーションの質を上げていくことで、顧客と企業の信頼関係を高める。それがRightTouchのビジョンでもある「テクノロジーで顧客と企業の繋がりを正しく深める」の真意です。

今後はカスタマーサポート側から能動的に電話対応を促すようなあり方を含めて、「問い合わせ後の効果」についても可視化していくことで、カスタマーサポートチームが顧客対応における花形になる世界を目指しています。

そして、カスタマーサポートに良い人材も集まり、これまでは眠っていた「宝の山」が事業に還元されていく。現在は構想を実現するための、最初のピンを立てたところ。この循環の回し方は、今後もRightTouchのメンバーと共にみんなで考えていきたいですね。

──事業規模やスピード感の目標はありますか?

長崎:
RightTouchの初速は感触がよいため、来期も投資フェーズにあり、もちろん採用も加速する予定です。KARTE RightSupportで培ったコアの価値を活かした新規のプロダクト構想も鋭意進んでいますし、カスタマーサポート市場に十分インパクトが与えられるだけの数値計画を、実現可能性のある目標として掲げています。

求めるのは「事業を伸ばすこと」を愛せる人

──長崎さんは代表取締役であり、プロダクトマネージャーでもあります。さらにマーケットにインパクトを与え、事業を加速させるために、どのような人材像を求めていますか?

長崎:
RightTouchでは“Vision & Culture”として「全てはプロダクトのために/全員プロダクト担当」を掲げています。セールス、カスタマーサクセス、エンジニアといった役割を決め過ぎると、仲間の仕事に興味を失ったり、視座が上がりにくかったりすると思うので、自分の役割に閉じすぎない意識が欠かせないかと思います。

目先の契約獲得や解約抑止も大切ですが、「プロダクトの成長につながるのか」「今後の負債にならないか」といった長期と俯瞰で見ながら、新しい価値を生み出すことにリソースを割ける、言わば「事業観点」を持つ人こそ、RightTouchの環境を存分に楽しみ、活躍いただけるのではないかと考えています。

あくまで目的は、事業/プロダクトを伸ばし、ビジョンやミッションの達成をすることのはずです。それ以外は全て手段。だからこそ「事業を伸ばすことを愛せる人」が良いですね。目的志向を強く持ちつつ、目的を実現する上で立ちはだかる「壁」を楽しみながら解ける人と一緒に働きたいです。

「どのように愛すのか?」はメンバーそれぞれで違っていても構わないと思います。「既存顧客と企業の関係をより強くしたい」でも良いし、私であれば「魅力的な市場で事業をつくっていける環境が面白い」という観点で事業成長を愛しています。中には「絶対王者のようなプロダクトをリプレースできる可能性がある」という熱量が愛につながっている人もいる。いずれも事業観点を伸ばすことで、想いを果たそうというのは共通です。

──RightTouchの組織カルチャーにおける特徴といえば?

長崎:
上司・部下のような関係はなく、基本的にはフラットで、「素でいて、気取らない」という感じですね。経営者が着飾って強く見せ、自ら孤独になったり壁ができたりするのはよくあるケースですが、そういうのは全くない。自分もできないこと、わからないことははっきりと「できない」「わからない」と表明するようにしています(笑)。

チームごとに月例などは一定ありますが、事業推進のスピードを上げるためにも「承認より謝罪」という価値観を持って、個々の裁量を大きくしています。制約のない環境で、あらゆる場面で設計から携われるフェーズであることは、一つの魅力だと思っています。

事業を伸ばすことを愛して得られた、3つの成長実感

──自らの課題感をもとに、コンサルからキャリアチェンジして数年間が経ちました。これまでの歩みを振り返って、どのような成長を実感していますか?

長崎:
大きく3つの観点から成長を実感しています。1つ目は、当初の狙いどおりに意思決定できる機会が増え、自分の「考える幅」がとても広がったこと。コンサルはクライアントのスコープに応えて提案する機会が多いですが、事業のオペレーションや採用戦略、組織のモチベーションなどの変数を考慮しきれない傾向にあると感じます。今はまさに事業を伸ばすための機会に直面し、それらの変数を考えることが多くなったからこそ、この成長があると思います。

2つ目は、意思決定のレベルが上がったこと。スタートアップですから関わる規模はそれなりとはいえ、会社や事業の方向性を決めたり、外部へ影響を与えたりするような意思決定をする機会が圧倒的に増えました。その過程で磨かれる思考があることも実感します。

シンプルですが3つ目は、他者と協調して働くという習慣ができたこと。多様性のある組織で、いかに働くのか。どう伝えれば人の成長を促し、モチベートできるのか。ここは自分も絶賛模索中ですが、そういったことを強く意識することがコンサル時代はほとんどありませんでした。

スタートアップに飛び込んだことで、自分自身の思考や行動の幅を広げて、実際に事業を創っていく立場になれました。自分が世の中に新しい価値を残そうしていることを考えれば、この決断は絶対によかったと言えます。

私自身は、原体験や圧倒的に強い信念を元に起業したわけではありません。そういった強さがある人を羨ましいと思うこともあります。ただ、私はマーケットや顧客の事業課題に携わるうちに連続的に気持ちが高まっていき、いろんな可能性が拓けていって、過去よりさらに良いと思える場所に今は来られました。ぜひ、私たちのように事業を伸ばすことを愛せる人で、新しい価値を創る過程の課題に楽しんで向き合える人を歓迎したいですね。

(取材/モリジュンヤ 文/長谷川賢人 写真/加藤甫)