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技術を軸に事業価値の創出に挑む——RightTouchのプロダクトエンジニアが見つめる「再現性のある立ち上げ」という専門性

カスタマーサポート領域の変革に取り組む株式会社RightTouchは、コンパウンドスタートアップとして複数のプロダクトを展開しています。同社では、エンジニアが技術領域に閉じることなく事業価値の創出に深く関わる「プロダクトエンジニア」という独自の組織文化を築いています。

朝日新聞社でDXを推進し、カケハシで新規プロダクトの立ち上げを経験した小室雅春(com)さん。プロダクトマネージャーが不在の組織で、エンジニアが直接ビジネスに関わるRightTouchの独自の開発文化に惹かれ、2024年7月に参画しました。

技術のコモディティ化が進む中、「再現性のある立ち上げ」という新しい専門性を追求する彼に、プロダクトエンジニアとしての挑戦と、RightTouchが目指す組織の未来について話を伺いました。

<プロフィール>  
小室 雅春(com)

早稲田大学大学院 電子物理学専攻修了。2016年に朝日新聞社に入社し、Webエンジニアとしてメディアのデジタルトランスフォーメーションに携わる。2021年にカケハシに転職し、新規プロダクトの立ち上げを経験。2024年7月よりRightTouchにプロダクトエンジニアとして参画。趣味は音楽・園芸。(X:@_hedrall

新聞社を経て、スタートアップでの挑戦を選んだ理由

——まず、これまでのキャリアについて教えていただけますか。

大学・大学院では物理を専攻していました。同じ研究室の多くがメーカーの開発職などに就職していましたが、その選択は「自分の手で、ものづくりがしたい」という思いとは合わないと感じたんです。それで、思い切って未経験のWebエンジニアとして朝日新聞社に入社しました。

——物理学専攻から大手新聞社のWebエンジニアは確かに珍しいキャリア選択ですね。
根本的に好奇心旺盛で、人と少し違う選択をする傾向があるのかもしれません(笑)。それに採用担当がとても面白い方で。月並みですが人に惹かれて入社を決めました。

当時はDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が叫ばれ始めた時期でもあり、新聞などのオールドメディアは特にデジタルディスラプション(※)の渦中にありました。
※デジタルディスラプション:新しいデジタル技術の登場によって、既存の製品やサービスの価値が変化し、市場が破壊される現象

僕はWebエンジニアとして、記事のコンテンツ管理システムの開発や、デジタル版のリニューアルプロジェクトの立ち上げ、広告入稿システムの開発など、さまざまなプロジェクトに携わりました。

——歴史ある大企業で、かなり先進的な取り組みにチャレンジしていたんですね。

そうですね。創業140年を超える伝統ある会社だからこそ、新しいことへの挑戦はもちろん容易ではありませんでした。

それでも、業界的に現場レベルの社員が課題意識を持っている部分は共通していて、周囲のサポートを得ながら多くの貴重な経験を積ませていただきました。

ただ、5年ほど経験を重ねるなかで、よりDXの中心に近いところで、日々合理的な判断をしながらスピード感を持って成長しているスタートアップ企業でのエンジニアリングを経験していきたいという思いが強くなっていきました。その後、より挑戦的な環境を求めてカケハシに転職し、リードエンジニアとして新規プロダクトの立ち上げなどを担当しました。

——RightTouchと同じくコンパウンドスタートアップですね。約3年間、プロダクトの立ち上げなどさまざまな経験をされたと伺いました。

はい。医療関連サービスの開発・提供という社会貢献性の高さと企業のビジョンや、それに真摯に取り組むメンバーの雰囲気に惹かれました。また、入社してからも個人の裁量とウェルビーイングな働き方を重んじる開発組織の文化は素晴らしいと感じました。

PdMと二人三脚で開発に取り組んだり、中核事業に手を挙げて異動したり。組織が180名から400名ほどに急成長するフェーズのなかで、自分にできることは積極的にチャレンジするようにしていました。

4社の内定から導いた「RightTouch」に転身すべき理由

——comさんは2024年7月、RightTouchにプロダクトエンジニアとして入社されました。転職を考え始めたきっかけを教えていただけますか?

転職を考え始めた大きなきっかけは、在籍する4年のうちに組織が変化する様子を間近で体験するなかで、「もっと早いタイミングから組織づくりに向き合いたい」という思いが強くなったことですね。

2024年初から色々な企業を見始めて、転職の軸は次のように決めていました。

・事業の社会貢献性が高く、ビジョンに共感できること
・技術だけではなく、プロダクト作りにチームで向き合えること
・組織やプロダクトの規模が大きくなっても、メンバーそれぞれが活躍しスポットライトが当たり続けるような組織構造を作っていけること

4〜5ヶ月かけて転職活動を行い、最終的に4社から内定をいただきました。

——RightTouchへの入社を決めた理由は何だったのでしょうか?

各社とも非常に魅力を感じていたので大変悩みましたが、最終的に自分を見つめ直した時に、あらためて自分がプロダクトづくりにもっとも集中できる組織はどこかと考えました。

RightTouchではジョブディスクリプションに記載している「プロダクトエンジニア」という役職名に表れている通り、実際エンジニアはプロダクトづくりに大きな裁量を持って働いています。

面談でお話ししたテックリードのnariさんが、BizDevのakkyさんと背中を預けながら、垣根を超えてプロダクトに向かう姿勢と圧倒的な熱量にも、大きな刺激を受けました。

また、CTOのyabuさんの個性的なビジョンとバランス感覚の良い開発運営にも感銘を受け、「一緒に進めていきたいと!」という思いが強くなりましたね。

学生時代に損害保険会社の事故受付センターでアルバイトをしていた経験があり、カスタマーサポートという事業領域を身近に感じていたのも大きかったです。

——これまでのcomさんの経歴やスキルという「点」が「線」になった瞬間だったんですね。

まさに。選考過程で代表のtaitoさんやCTOのyabuさん、テックリードのnariさんと面談するなかでも、メンバー全員でオーナーシップを持つ組織、真摯に顧客への価値提供やものづくりに向き合う姿勢など、RightTouchに惹かれた理由は挙げたらキリがありません。

中でも最終的な決め手になったのは、内定後にnariさん、BizDevのakkyさんとミーティングをした時の印象ですね。

——「内定後のミーティング」ですか?何があったのか気になります!

若手ながらおふたりがイシュードリブンかつ非常に熱い思いを持って事業を牽引している姿勢に強く惹かれたんです。また、技術などそれぞれの専門領域に閉じず、事業やプロダクトにフォーカスを持って議論されていたのが印象的でした。

その姿を見て、理屈ではなく、情緒が突き動かされたというか。つまり、最後は「直感」でしたね!(笑)

ただ、入社してからもイメージ通りで、RightTouchが「プロダクトエンジニア」としてエンジニアを採用している所以が理解できました。

プロダクトマネージャー不在の組織で、エンジニアはどのように価値を生み出すのか

——入社から半年ほど経った今、comさんが感じるRightTouchならではの組織の特徴を教えていただけますか?

僕がもっとも特徴的だと思うのは、「新規事業立ち上げにプロダクトマネージャー(PdM)を明確に置かない」という点です。

一般的なPdM像で思い浮かべるのは、エンジニア出身で、ビジネスも人材マネジメントもできる“スーパーマン”のような存在じゃないですか。

特にBtoB SaaS事業では、まだ形になっていないものやビジョンレベルで顧客に提案し、共に作り上げていく必要があるので、クライアントに対するコミニュケーションでもより高度なスキルが求められると思っています。

仮にそういう方が各事業にいれば良いですが、コンパウンド戦略をとる以上どうしてもボトルネックになる可能性があります。

——PdMを置かず、どのように開発を進めているのか気になります!

RightTouchでは新規領域に関して、技術領域に精通したフルスタックエンジニアと、事業領域に強くコミットできるビジネスメンバーがPdMを介さず直接コミュニケーションを取る体制を採用しています。立ち上げフェーズでは、この形の方が最もスピード感を持って進められると考えているからです。

実際に僕が所属するプロジェクトでも、代表のtaitoさんがビジネスサイドを担当し、デザイナー1名、プロダクトエンジニア3名、AIエンジニア1名という構成で進めています。

プレ要件レベルの大まかな方向性は基本的に全員で議論し、具体的な部分は要件を含めてエンジニアとデザイナーで決めていく形です。

実のところ、僕自身もPdMを置かずに開発ができるのか、当初は困惑した部分も多くありました。ただ、進めていくうちに、全員の目線がプロダクトにフォーカスされているからこそ、コンテキストの擦り合わせがうまくいくし、一人ひとりの活躍が着実にチームを前に進めていることに気づくことができました。

また、要件の部分からボールを持つことになるので、産みの苦しみは存分に感じつつ、まさにやりたかったプロダクト作りをエンジニアとして実現できている充実感があります。

「全員プロダクトエンジニア」コモディティ化が進む技術時代に求められる、新しいエンジニア像

——「プロダクトエンジニア」という概念に馴染みがない人もいるかと思うのですが、どんな役割を担っているのか、もう少し教えていただけますか?

そうですよね。まず、RightTouchでは次のように定義しています。

プロダクトエンジニア:
仕様検討や設計、開発をメインに行うエンジニア
領域を絞らず基本的に開発に関わることは何でもやります


デザインエンジニア:
HTML/CSSなどデザインよりの技術に長けたエンジニア
主にフロントエンドをメインに開発を行います(HTML/CSSの周りの啓蒙活動も)

カスタマーエンジニア:
プロダクトのスペシャリストとしてプロダクトと顧客をつなぐエンジニア
顧客とのコミュニケーションからコンセプトレベルの機能のデモ開発まで幅広くやります

その上で、RightTouchのエンジニアは基本的に「全員がプロダクトエンジニア」である、という理解をしていただければと思います。専門的なスキルがあるメンバーも活躍していますが、基本的な姿勢は変わりません。

「プロダクトエンジニア」は、名前の先入観で技術軽視と誤解されることがあるかもしれませんが、「技術を起点としながら、事業価値の創出まで視野に入れて活動する存在」として、より広範に関心を持ったフルスタックエンジニアと説明すると分かりやすいでしょうか。

——全員がプロダクトエンジニア、ですか。

はい。技術のコモディティ化が進むなか、エンジニアの役割も変化してきています。

例えば、10年前に比べてクラウドインフラの構築は格段に容易になり、フロントエンド開発のツールも充実してきましたよね。ここ数年でも、AI技術の発展により、コードの生成も当たり前になってきています。

そうした変化のなかで、エンジニアの役割はますます広がってきており、技術的な対応の全体、ないしプロダクト価値創出の源泉になってきていると考えています。そのためには、前提となる事業の理解や、顧客からの一次情報に直接触れることもますます重要になってきます。その背景から、RightTouchではエンジニアも顧客との商談やMTGに参加する機会が多くあります。

特に立ち上げフェーズでは、不確実な課題に対して仮説を立て、顧客にヒアリングを行い、その結果を技術面に反映していくという反復的なプロセスが重要です。

さらには、スピードが求められるなかで、チームでそういったコンテキストを共有しつつ、各々が独立して有機的にオーケストレートすることが事業の競争力につながります。これは従来のPdMが最終的なオーナーシップを持つ開発運営方式とは異なる、全く新しいタイプのエンジニアリングだと考えています。

「こだわりと仮説を持ち、“自燃”できるエンジニア」がRightTouchで活躍できる

——激しい技術進化に柔軟にキャリアを変えていく必要があるということですね。ここで、comさんの今後のキャリアの展望について教えてください。

僕個人としては、プロダクトの立ち上げに関する専門性を高めていきたいと考えています。

というのも、エンジニアのキャリアパスには、大きく2つの方向性があると思っていて。

一つは大規模システムなどで特定の技術領域に関して高度な専門性を追求する道。もう一つは、技術を道具としてインテグレートして再現性高く価値を生み出していく専門性です。メタファーですが、私は理系だったので、理学的なアプローチと工学的なアプローチを対比しています。更にtoB領域でコンパウンド戦略を取る企業が増えていく中、立ち上げ期にリーズナブルな選択を重ねることが、その後のプロダクトのグロースに対して大きくレバレッジをかけて行くことを実感しています。

自分は特に立ち上げからプロダクトに関わることで、今取り組んでいるプロダクトを成功させることはもちろん、その過程で得られる経験を次のプロジェクトに活かせる形に昇華させていきたいと考えています。

そのためにはドメイン駆動設計など、知識を体系化する技術が重要になると考えています。

——では、RightTouchのエンジニア組織について、どのような未来を描いていますか?

規模が大きくなっても、変わらず「一人ひとりの個性や働きが埋没しない組織」であり続けてほしいですね。

この理想を達成するためにも、主体的に行動できる人材の採用や、主体性の高い組織文化の醸成が欠かせません。

一方で、組織課題はメンバーの素質以上に構造的な課題から生じる部分が大きいと考えています。

事業戦略としてコンテキストを適切に分解できるよう、システム上のモデルを整理し、各コンテキスト内での意思決定が主体的かつスムーズにできるような構造を戦略的に構築していく必要があると思っています。

技術面では、実際のビジネスドメインの摂理とのミスマッチの少ないモデルを構築し、段階的に構造を見直していく。RightTouchがより良い事業、強い開発組織になるよう、僕にできることは全力で取り組んでいきたいと考えています。

——最後に、comさんが考える「RightTouchのエンジニアとして活躍できる人材像」を教えてください。

技術がコモディティ化するなかで、一人のエンジニアができる範囲は確実に広がっている一方で、認知的な負荷は無限に広がり続けており、「やり切ること」の重要性がより一層高まっていると感じます。そのため、「こだわりを持って自分の仮説を追求できる人」かなと。

RightTouchが大切にしているマインドの一つに「自燃する」という表現がありますが、「誰かに影響されて動くのではなく、自分のなかにある興味やモチベーションを源泉に行動を起こせる人」がRightTouchで価値を発揮しやすいのではないでしょうか。

何が正解かという「定石」がないスタートアップでは、自分で考え、必要なアクションを設定し続ける必要があるからです。

また、広さと深さのバランスも重要ですよね。技術的な基礎力を持ちつつ、不確実な課題に対して仮説を立て、メンバーや顧客との対話を通じて解像度を上げていく。そうしたプロセスを楽しめる方であれば、必ず活躍できる環境だと確信しています。

——ありがとうございました!

(取材・執筆/安心院 彩)


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